公益財団法人 自然農法国際研究開発センター 公益財団法人 自然農法国際研究開発センター

基本的な考え方

当センターが推進する自然農法は、「より多くの生命が、より豊かに調和する」自然の方向性とそれを支える生物による営みに人間が正しく関わり、その働きを引きだすことで、自然に息づく人間をはじめ多様な生物が、より豊かになることを目的としています。

自然農法栽培とは、こうした考え方に基づき、生態系を乱す化学肥料・農薬(合成・天然を問わず)の使用を控え、「生態系を充実させて物質循環機能を高め、全ての生き物の役割を認め、より自然の機能を発揮させる」事を原則とした、永続的な栽培をいいます。
そのための適切な有機物の利用、品種や栽培時期を含めた耕種管理の適性化などを技術の基本としています。

はじめに

1935年(昭和10年)に岡田茂吉が自然農法を提唱した当時、日本の農村はその日に食べる米にさえ事欠くほど貧困にあえいでいました。岡田は農民が豊かになる根本は「大自然を尊重し、その摂理を規範に順応する事」であると考えました。

岡田は「生きている土の偉大な能力を発揮させれば、自然は豊かな恵みを与えてくれる」、こうした考えのもとに実験を繰り返し、今日の自然農法の基本的な概念を構築しました。
地球の歴史は46億年と言われています。その悠久の歴史の中で、自然は多くの生き物を産み、育てて、豊かな海と大地を築き上げてきました。そうした自然の営みを尊重し、その営みに学び、その営みを支えている働きを農業に活用することが、人間の生命の源として好ましい食糧を安定生産するためには欠かせません。

当時から90年、戦後復興、高度経済成長の時代を経て、私たちは豊かな生活を手に入れることができました。その一方で、私たちの生活は自然と大きな隔たりを持つようになりました。
今日、私たちは多くの環境問題を抱えており、食に対する不安も高まる一方です。

私たちは今一度「自然とは何か」「食糧とは何か」を問いなおす時期に来ているのではないでしょうか。

21世紀 どんな環境もんだいがあるの?

自然のとらえ方

一般に「自然」とは、人間の手が加わらない状態を指すと考えられています。ですから「自然農法」は人間が何も関わらない、放任的な農法と思われるかも知れません。しかし、我々が普及している「自然農法」は人が自然に対して適切かつ積極的に働きかける農法です。それは「自然」という言葉の捉え方が異なっているからです。

自然には「より多くの生命が、より豊かに調和する」方向性と、それを支える複雑で巧妙な仕組みがあります。一つの生物個体である私たちの体の中でさえ、自らを守るための巧妙な仕組みがあるのです。自然農法で呼ぶ「自然」とは、単に目で見て分かる自然だけでなく、むしろその背景にある様々な仕組み、働きの事までも含んでいるのです。

自然との関わり方

自然農法に取り組む私たちにはいくつかの基本的な考え方があります。

自然を尊重して自然に教わる
自然界の巧妙な仕組みは、ただ眺めていても分かるものではありません。そのためにも自然を観察することです。

なぜ、あんな小さなタネから根や茎や葉ができ花が咲くのでしょう?
山の木々は誰が育てたのでしょう?
自然の大きさ、仕組みの複雑さは私たち人類の経験の中では、その一部しか理解できていません。

それにもかかわらず私たちは人間の都合に合わせて草や微生物、昆虫の善し悪しを考えてしまいます。雑草や害虫、病原菌と呼んで排除しようとしています。自然の大きな仕組みの中では、みんな役割を持っているのですから、謙虚な姿勢で、その役割を考えることも重要なことなのです。

自然観察のポイントは次の3点です。

  1. 愛情を持って土や作物の声なき声を聞くこと
  2. 積極的に自然に働きかけてみて、謙虚な気持ちでその結果に学ぶ
  3. 全てのものに存在する意義があると思って観察すること
自然との関わり方を見直す
人間は他の動物と同じレベルで生を営むわけではありません。人間には自分を向上させる能力、知識や経験を伝える言葉があります。それを記録することも、田畑を耕して他の生物を育て、自ら食糧を生産することもできます。反対に化学物質を撒き散らして他の生物を殺すことも、自然を壊すことも可能です。

私たちは「より多くの生命が、より豊かに調和する自然の仕組み」を理解することで、自然に生かされているということを認識することができます。従って、人間には自然に矛盾することなく、環境に負担をかけない関わり方が求められていると思えるのです。

人間が自然に正しく関わることで、自然から豊かな恵みを享受することができます。例えば、水田を放置しておけば、やがて落ちた種籾(たねもみ)と稔(みの)る籾の数が同じになると言われています。そうならずに毎年、播いた籾の400倍もの籾を収穫できるのは、人間が苗を育て、水田を作って育てているからです。また、赤トンボは人間が人工的に作った水田のなかで生息域が拡がり、その種類や数が増えると言われています。人間が植物や動物をじょうずに管理することで、自然は一層豊かな恵みをもたらしてくれます。
自然の仕組みを引き出す
自然の仕組みを理解し、その働きを引き出すことが、自然農法の原理である「土の力を発揮すること」にもつながっています。自然の仕組みの最たるものが「生物を介した循環」です。

この地球に生物が誕生してから35億年、この間に幾度となく急激な気候変化や多くの地殻変動があり、その度に生物は大きく減少したことでしょう。しかしその都度、自然はより豊かな大地を育んできました。

その中心的な役割を果たしたのは、植物と小動物、微生物です。植物やごく一部の微生物は太陽のエネルギーを固定して、糖やタンパク質、脂質などを合成します。この糖やタンパク質をエサにして、動物や昆虫などが生育します。植物や動物の遺体は小動物や微生物によって分解されて土に還り、植物に必要な栄養になり、より多くの、より多様な生命が生まれ、豊かな大地が形成されてきたのです。私たち人間も、この生物を介した循環の中で生まれ、生かされています。

土壌は、気候風土により土壌有機物の蓄積量が異なり、その環境にあった植物や土壌生物によって育ちます。これら生物に影響を受ける土の表面の層と、影響をほとんど受けていない下層土、その中間層などが立体的に進化してきます。作物栽培に適した土は、水持ち・水はけが良く、団粒構造が発達しているといわれますが、この団粒は砂や粘土に微生物や植物根からの分泌物、腐植などが接着剤となり、生きている根に締め付けられ、圧縮されるなどでできます。根の多いイネ科の牧草や雑穀などはこの効果が高く、雑草をはやすことも、緑肥や作物を栽培すること自体も土がより良く育つことにつながります。

このように、生きた土壌生物や植物根を含む土壌有機物は土壌が良くなるために重要な働きがあり、雑草や作物残渣、有機肥料を含む有機物を分解して養分とした土が作物を育てるのと同時に作物が土を育てていることになります。この働きを栽培者が手助ける「育土(いくど)※」が栽培の安定につながります。

自然農法では一般で言う「土づくり」を「生きている土を育てる」という意味で「育土」と呼びます。

生物を介した物質・エネルギー・生命の循環

自然農法の生産方針

生物を介した物質循環は、また生命の連鎖でもあります。私たちの生命は他の植物や動物の生命によって支えられているのです。

私たちが健康で豊かな生活を送るためには、私たちの生命の糧となる植物や動物もまた、健康で、生命力に溢れていなくてはなりません。自然農法生産の大きな目標は、この生命力に溢れた、健康な作物を栽培・生産し、消費者に提供することです。

生命の糧ですから、安全であることはもちろん、安定した生産ができなくてはなりません。生産性が高い土壌は、構造が発達して膨軟で適度な透排水性と保水性があり、肥沃で肥持ちがよく、土壌生物が多様で多く存在しています。そういう土は、雑木林や湖沼で見受けることができます。これを手本に、優良な土壌腐植の増加と豊かな土壌生物群を育てる育土(いくど)※が最も重要であると考えています。育土のためにも、地域内にある未利用資源の有効活用や休閑期等を利用した有機物生産は欠かせません。

その上に立って、植物の生理に合うような適期の栽培や、厳しい環境の中でも自立して子孫を残す事ができる力の強いタネの利用を心がけるなど、適地・適作・適品種を基本とし、「育土」がすすみ、農地生態系の充実に合わせて栽培体系を変化させていく工夫が必要です。

安定生産に向けた栽培のポイント

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