第4回 野菜が自由に育つと個性が現れる

 

概要
1. 根張りが良くなると自力で生育する
2. 果菜類の定植後の管理
3. 栄養成長と生殖成長のバランスをとる
4. 母本の選抜
5. 雑種の強さを生かす

 

1. 根張りが良くなると自力で生育する

 トマト、キュウリ、ピーマン、ナスなどの果菜類は根を張らせ、茎葉を伸ばし、側枝を発生させる栄養成長と、花芽分化から着果結実させる生殖成長を並行して進める野菜です。生育初期に強い根が張ると茎葉が充実し、栄養成長と生殖成長のバランスが保たれ、実の着きが良くなります。自然育種園は「地力」で野菜を栽培しているため、栄養成長期に野菜が自力で根を広範囲に張り、土の養分や水分を吸収しなければなりません。

 自然育種園は畑の生き物たちの働きで毎年少しずつ土が肥えてきていますが、それでも「地力」のみの少肥条件下で成長するためには、野菜自身が強い根を張り、ストレスに耐える力を身につける必要があります。多肥条件下で育成された従来の品種では根が弱いので無施肥への適応性がなく、少肥条件では十分に品種の特性を発揮することができません。そこで注目したのが自生野菜たちです。自生野菜は畝の両脇に掘った溝の中にできた腐植や、畝上に掘り上げた土の中から自然生えしてきます。彼らは色々なやり方で発芽し、タネをこぼしていることが観察されています。

 その中の代表的な3例を挙げると、以下のようになります。
一塊(ルビ:ひとかたまり)の集団になって自然生えし、幼苗期を群生して過酷な条件を乗り切る。伸長期に入ると、伸びが早く草勢の強いボス的株が集団から伸び出し、枝を四方に伸ばし他を圧倒して実を多く着け、タネをこぼす。このタイプには、トマト、キュウリ、カボチャなど生育スピードの早い野菜がある。

  • ナス畝から自然生えし、果実(タネ)を着ける自生キュウリ

 

一塊の集団になって自然生えし、そのまま結実期までお互いに支え合うように群生して実をつける。その中で完熟果に達した株がタネをこぼす。このタイプには、ピーマン、ナスなど生育スピードが遅く、完熟まで日数がかかる野菜がある。

  • 群生し果実を着ける自生ピーマン

 

一株だけ自然生えし、一匹狼のように自力で生育して実を着け、タネをこぼす。このタイプは野菜全般に見られ、交雑してユニークな特性に変異するものもある。

  • ピーマン畝で自生するスイカ

 

 自生野菜から採種したタネを播いてみると、発芽や初期生育がよく生育旺盛で遺伝的多様性があると思われ、生存に有利な特性をもつタネが自然に選ばれているのではないかと感じられます。そこで自然育種園では、自生野菜から選抜した系統を自給用に栽培しながら、収穫終盤までスタミナが落ちない株や集団を、根張りの良い個体群としてさらに選抜、採種しています。栽培では根が良く張れるように株間を広くとり、無整枝にして側枝を自由に伸ばし、個々の個性がよく現れるように生育させます。

 

2. 果菜類の定植後の管理

トマトの場合
第3回 自然が苗を育ててくれる」で紹介した苗団子(ポットの中で群生させた苗)の苗をそのまま定植します。株間は120㎝。一株当たり支柱6本を40㎝間隔の合掌に立て、その中心に苗団子を定植し、側枝が伸び始める時点で草丈や側枝発生数を観察し、伸びの良い株を3株残して他を間引きます。側枝が支柱に誘引できる長さに達したら、3株の中で側枝が太く、葉数の多い1株を選び、他2株を間引きます。1本の支柱には1〜2本の側枝を誘引します。

  • トマトの苗団子

 

キュウリの場合
トマトと同じく、苗団子の苗をそのまま定植します(直まきでは、巣まきから苗団子にします)。支柱数は系統の草勢の強さによって決めます。草勢の強い系統は一株当たり支柱6本を40㎝間隔の合掌に立て、その中心に定植(株間120㎝)、草勢の弱い系統は一株当たり支柱4本を50㎝間隔の合掌に立て、その中心に定植(株間100㎝)します。側枝が伸び始める時点で草丈や側枝数を観察し、伸びの良い株を3株残して他を間引きます。側枝が支柱に誘引できる長さに達したら、3株の中で側枝が太く、葉数の多い1株を選び、他2株を間引きます。1本の支柱には側枝1〜2本を誘引します。

  • キュウリの誘引 6本の支柱に主枝、側枝を誘引

 

ピーマン、ナスの場合
苗団子の苗を株間120㎝に定植。活着後も間引かず、仮支柱を立て終盤まで群生させます。草丈が伸びてきたら支柱を増やし、倒伏しないように紐で全体をまとめて縛ります。

  • 苗団子から間引かず群生するピーマン

 

3. 栄養成長と生殖成長のバランスをとる

栽培者は自給野菜をできるだけ長期間収穫することを望みます。一方、野菜は確実に実を着けて子孫を残すことを望みます。栽培においてこの両者のバランスを取ることが大事です。これを生かすために収穫を急がず、初期に着いた雌花はあえて摘果して根の伸長を促します。キュウリの場合は主枝15節までに着果したものは摘果、中玉トマトは第3果房までは一果房あたり5果に調整して他を摘果、ピーマン、ナスは3番果まで摘果します。また、キュウリの収穫は朝夕の2回行い、80gのSサイズで獲ることで木の負担を軽くします。成り疲れが見えてきたら、小さい果実まで全て摘果して一旦リセットしてやるとツルの回復が早まり、9月上旬まで収穫できます。トマトは降雨後に裂果しやすいので、割れてしまった果実は早めに摘果して負担を軽くしてやると茎葉が元気になり、次に肥大する果実の裂果が軽減します。ピーマン、ナスは群生させると栄養成長が旺盛になって着果肥大がゆっくり進み、果実の成りすぎが抑えられます。中でもピーマンは他に比べて小柄な草姿で草勢がおとなしいですが、他の果菜類が枯れ上がってもスタミナを保ち、霜で枯れるまで成り続けるしぶとい野菜です。

 

4. 母本の選抜

 自家採種するための母本(=タネ採りをする株)の選抜は、収穫の初期、中期、後期の3回に分けて行います。3回に分けて選抜する理由は、1回目は人間の好み、2回目は野菜の望む方向(生命力の強い子孫を残す)、3回目は両者の要望を兼ね備えた個体群を選ぶためです。1回目は果実に重点を置きます。果形、果長、果色、光沢、食味などを観察して直感で好みの株を数株選び、目印の棒を立てます。果実は野菜の顔のようなもので、一度好みのものを選ぶと何年栽培しても果実の姿を忘れることはありません。心に残る株を選ぶようにしています。

 2回目(収穫中期)は草姿に重点を置きます。根張りの状態が草姿に現れるので、若い枝が隣まで伸び、勢いのある株や株元の茎の太い株、ボス的な目立つ株を数株選び目印の棒を立てます。

 3回目(収穫後期)は1回目と2回目の両方で選んだ株に絞り、選抜した株の中で病虫害の発生状況、奇形果の多少や若い果実の着果状況から成り疲れの程度を判断して、最終的に子孫を残すのに相応しいしっかりした株を選びタネを採ります。また選抜から外れた株に着いた果実でも、この中から思いがけない特徴のある個体が現れることがあるので、いつでも自生できるように収穫せずに残った果実はすべて畝脇の溝に入れます。

  • トマト:勢いのよい株を選抜(赤色棒の目印)

 

 私は、栽培、選抜、採種を通して野菜と直に向き合うことは人間と野菜のコミュニケーションの場と考えています。栽培者の考えを野菜に伝え、野菜からのメッセージをうまくキャッチして栽培に生かす。野菜は畑の生き物と共に育つ新しい農業を築くための大事なパートナーだと考えています。

 

5.雑種の強さを生かす

 トマトは自家受精する野菜であり、普通に栽培している場合、交雑は滅多に起こりませんが、自生トマトの中には雑種個体を発見することがよくあり、そのような交雑した個体は草勢が強く、実も多く着けます。思い込みかもしれませんが、自生トマトは交雑してなんとかタネを多くこぼそうとしているのではないかと思うことがあります。

 トマトは草勢の強い野菜ですが、雨の多い日本の気候では、裂果や病気が多発し露地栽培には適していません。例えば私が自生トマトから選抜した大玉と中玉の育成系統は、大玉トマトの着果不良、中玉トマトの裂果と終盤のスタミナ切れが問題でした。そこで中玉系統に大玉系統を交配して交雑種にしてみたところ、果実の大きさや果房の果数は両系統の中間になり、裂果が減少してそれぞれの育成系統を上回る収量になりました。

 大玉と中玉の育成系統は露地栽培に適さないのではないかと思っていましたが、交雑種にすることで適応性が向上することが分かりました。また交雑種後代からは新たな系統が生まれて適応幅が広がります。自生トマトに見られる交雑は本来合わない日本の気候風土になんとか適応するための戦略かもしれません。

  • トマト中玉系統

 

第1回 自然育種園と歩む喜び
第2回 無施肥・不耕起の草生栽培
第3回 自然が苗を育ててくれる
第4回 野菜が自由に育つと個性が現れる
第5回 野菜は自生、交雑によって進化する
第6回 2023年夏の猛暑を乗り越えた野菜たち

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